はぴひび

文系/院卒/女/総合職挫折/現在一般事務兼主婦

「自分は大切」ということに納得する

『自分を大切に』という言葉をよく耳にする。「自分を大切にできる人は他人を大切にできる」といった風に使ったりするけれど、この『自分を大切に』という部分がいまいちピンときていなかった。

社会の中で過ごしていると、「自分を大切に」することが上手い人は割といる。鈍感な私でも分かるくらいに「自分を大切に」することが上手い人たちは、いつも楽しそうで、そして思いやりがある。私はそんな人たちに憧れはしても、具体的にどうしたらいいのか分からなくて、それどころかそもそも「自分が大切か」という点に関してもまったく納得ができていなかった。日本だけでも1億2千万人も人がいるのに、その中で私を大事にする意味ってなんだろう。

 

<子ども>のための哲学 講談社現代新書―ジュネス

<子ども>のための哲学 講談社現代新書―ジュネス

 

 この本は『なぜぼくは存在するのか?』『なぜ悪いことをしてはいけないのか?』をテーマに哲学をしていく。この『なぜぼくは存在するのか?』という疑問を納得するまで考えていくうちに、副産物として「自分が大切だ」ということがわずかに分かる。

実際、『自分は大切なのか』という疑問を他者に投げかけても、「それは君が世界に一人しかいないから大切だよ」というどこか的外れな回答が返ってくることが多い。そんな中で、ここまで「自分が大切である」と納得させる論理的な回答に私は初めて出会った。「君が世界に一人しかいないから」と答える人たちは、おそらく『自分が大切』であるかどうかにそもそも疑問を感じたことがないのだろう。疑問に感じたことがないから良い悪いではなく(だって絶対に、自分が大切だ と無条件に思える人の方が人生は楽しいだろうし、かといって自分が大切だ と無条件に思えなくても、人としてどうかということとそれは無関係だ)、ただ単に「自分は大切なのかということを真に問い続けることが難しい」ってだけだ。となると、自分で『自分は大切か』を問い続けなければならない。でも、今月の光熱費とか電車の時間とか同僚とうまくやれるかとかそういった大事なことで日々手一杯な私たちが『自分は大切か』を問う余裕はそうそうない。この本は、そんな私たちに手を差し伸べてくれる一冊だ。

 

しかしまぁ皮肉なことに、この本の作者は "そんなことが言いたいんじゃない" 。哲学をするということを伝えたいのであって、この私の読み方は作者の思惑とは違う読み方だ。私の読み方は、すでに哲学された思想を携えて人生を生きていく(自分は大切だという思想を携えて人生を生きていく)という読み方。作者が望むのは、他人の哲学を覚えることではなく自分で哲学することだ。つまり作者は、この本のテーマとして取り上げている『なぜぼくは存在するのか?』『なぜ悪いことをしてはいけないのか?』を例に作者が実際に行った哲学を再現してみせているのである。

この本を読んで哲学ができるようになったかと問われると、残念ながら答えはNOだ。でも、そうでなくとも『自分が大切か』ということには納得はいくし、哲学という謎だらけの学問の一端には触れることができるだろう。